もしもダンガンロンパだったら(第6話)



今日の午前1時40分。
・・・師匠が死んだ・・・・。

それだけでもう倒れてしまいそうな程強いショックを受けるのに
その犯人は私達の中にいるという・・・。

信じられない。

誰がこんな酷い事を出来るのか?


私の部屋の隅でぐったりと壁によりかかる師匠。


何故師匠は殺されたのか?


どうやって殺されたのか?



その真相を暴かなければいけない。



琶月
「(絶対に・・・絶対に犯人を見つけ出してやる・・・!!
私達が生き残るためにも・・・。師匠のためにも!!!)」



捜査を始める前に、もう一度今回の事件について状況を振り返っておくべきだろう。

モノクマから動機を与えるためにDVDを見せられた後、私は自分の部屋に戻って昼寝をしてしまった。
それから大体三時間後の11時。インターホンのチャイムが何度も鳴り私はそれで起こされた。
ドアを開けるとそこには師匠が立っていて、部屋に招き入れると背中を見せた瞬間、首元を叩かれて私は気をを失ってしまった・・・。
そして、次に目を覚ました時には師匠は私の部屋の角でぐったりと壁にもたれかかりながら死んでいた・・・。

ここまでが今現在私の知る限りの経緯だ。

・・・まさか、記憶がないだけで本当に私が殺しちゃった・・・なんて事は・・・。

琶月
「・・・ないないないない!!!絶対にそんな事ない!!!!!」

誰もいない廊下で一人首を横に振り続けてその可能性を追い払う。

琶月
「(とにかく・・・!捜査をするならやっぱりまずは私の部屋だよね。・・・事件現場と深くかかわっているのは明白なんだから・・・。)」

次に捜査するとしたら師匠の部屋だろうか。
何か手がかりがあればいいんだけど。
今現在捜査すべきと思われる個所はこの二つ。

琶月
「・・・あ、そうだ。」

捜査を開始する前にファンから手渡してもらった手帳を一通り読んでおこう。
確か、ファンが状況を事細かくメモしていたと言っていた。
私は茶色の皮で出来た手帳を開き羊用紙の上に書かれた文字を読み始めた。


『時刻 06:11
琶月の部屋にて輝月の死体を発見。事件の可能性が高いため人物中心にメモ。

琶月:べったりと服に血が付着。誰の血か不明 →追記:琶月に怪我はない模様。輝月の血である可能性大
    手に血等の汚れなし。綺麗。
    部屋に駆け付けた時は錯乱状態。』

・・・もっと長々と書いてあると思ったが、これしか書いていなかった。
いや、それでも当時私がどういう状況化にあったのかちゃんと文字として残っているのは凄い事なんだけど・・・。
これが役に立つ情報に果たしてなるのだろうか?

[言魂:ファンの手帳]
 ->私の身体状況について細かく書かれている。
 ->事件当時、私の服は血でぐっしょりと濡れていたらしい。
 ->手は綺麗だったらしい。

琶月
「(とりあえず・・・まずは私の部屋から捜査しよう・・・。)」

・・・もう一度、師匠の死体と向き合わなければいけない・・・。
悲しみも湧けば怒りも湧いてくる。でも今は無心になるつもりで・・・捜査を続けないと。
それは私のためでもあって・・・皆のためでもあって・・・師匠のためでも・・・あるから・・・。
時間は限られている。私は小走りで自分の部屋へと向かっていった。


・・・。

・・・・・・・。

廊下を走っている間、誰ともすれ違わなかった。
自分の個室へたどり着き、扉を開けると血生臭い死臭が私の鼻を刺激し思わず吐き気がこみ上げた。
口元を手で押さえ若干涙目になりながらも、私は自分の部屋へと足を踏み入れた。
部屋にはヘルとディバン、そしてギーンが居た。三人は何食わぬ顔でただ突っ立っている。・・・いろいろおかしい。
私が部屋の中央へ近づくとヘルが私の存在に気づき話しかけてきた。

ヘル
「おい、何も触れるんじゃねーぞ。」
ディバン
「どうしても触れなければいけない時は俺達に言え。」

事件現場を監視している二人に釘を刺された私は黙って頷いた。
私が更に一歩、前に足を進めるとヘルが更に忠告を私に出した。

ヘル
「待て。てめぇ証拠を隠滅するつもりじゃねぇよな?もし俺の目の前で証拠隠滅なんかしたら完璧バキッグシャとしてやるからな。」
琶月
「し、しないしない!!しませんって!!」

擬音しかないヘルの脅しだったが、何をされるか容易に想像できる・・・・。
勿論、端から証拠を隠滅するつもりなんかない。

ギーンは黙々と事件現場を捜査し続け考えている。私が入ってきたことに気が付いていないようだ。
とにかく、私もこの部屋について徹底的に調査をしよう。

6時に起きた時はパニック状態に陥っていたから部屋の状況なんて気にも留めなかったけど
少し落ち着いて改めて眺めると、とにかく部屋が荒れている事が分る。
壁には何か斬撃が掠ったかのような跡が壁に残っている。

[言魂:壁についた無数の傷跡]
 ->何か斬撃が掠ったかのような跡がたくさん残っている。

他にも、ひっくり返った丸テーブル。壊れた椅子などから激しい戦いがあったのは事実だろう。
・・・相当な音がしたはずだけど・・・誰も気づかなかったのかな・・・。

ディバン
「激しい戦闘の跡があって、相当な音がしたはずだ。何故誰も気づかなかったのか?っとでも考えていそうだな。」
琶月
「うわっ!考えていた事そのまま言われた!」
ディバン
「お前に限らず殆どの奴が最初にそう思うはずだろう。この部屋に限らず、全員の個室は防音が施された部屋みたいだ。」
琶月
「ってことはいくらここで私が叫んでも他の人には聞こえないって事ですか?」
ディバン
「そうなるな。」
琶月
「プライベートは守られていますね・・・。」

[言魂:防音の施された部屋]
 ->私の部屋に限らず、全員の部屋は防音が施されているらしい。

ディバン
「問題はこんな状況下でプライベートを満喫できるかって問題があるけどな。」

それも確かに・・・・。
部屋の捜査はこんなものだろうか。・・・次に調べなければいけないのは・・・。

琶月
「(師匠の・・・死体・・・。)」

今でも師匠の死体を調べるのは大きな抵抗感がある。いや、何年経っても抵抗感は消えないはずだ。
・・・つい、昨日まで・・・師匠は生きていて私とお話をしていたのに・・・。
目を閉じ、ぐったりしている師匠はもう、2度と起き上がる事はない。
また涙が混み上がり嗚咽を漏らしながら泣きそうになるが、今はグッと堪える。いつまでも泣いてはいられない。

琶月
「(師匠・・・絶対に・・・絶対に私が犯人を見つけてみせます・・・!!!)」

私は意を決して師匠の亡骸に近づいた。体が震えているけど、一つ一つ調べ上げていこう・・・。
師匠の死体で最初に目につくのは胸に突き刺さった黄金の模擬刀だろう。モノクマファイルにも書いてあったが心臓に突き刺さっているらしい。
・・・これでは助かるはずもない・・・・。

琶月
「(ん・・・?)」

この模擬刀。持ち手の部分の金箔が殆ど剥がれてしまっている。確か素手とかで触ると簡単に剥がれてしまうんだけど・・・。
私が持ち帰ってきたときはこんなにも剥がれていなかったはずだ。

[言魂:黄金の模擬刀]
 ->師匠と一緒に持ち帰った模擬刀。素手とかで触ると簡単に金箔が剥がれる。水で流しても中々洗い流せない曲者。

琶月
「(もっと調べよう・・・。)」

私はもっと死体に近づいてジックリ観察を始める。
・・・しばらく観察を続けていると、師匠の指になにかキラキラしたものが付いている事に気が付いた。

琶月
「(何だろう・・・。・・・金色・・・金箔?)」

[言魂:輝月の指についた金箔]
 ->指に金色のキラキラしたものがついていた。恐らく金箔。

琶月
「(・・・犯人の模擬等による攻撃を手で防ごうとしたのかな・・・。もっといろんなところを調べてみよう。)」

調べる箇所は他にもある。
私はザ・モノクマファイルを手に取り、内容を照らし合わせながら死体の確認を行っていく。

琶月
「(致命傷は心臓への刺し傷・・・)」

それはこの黄金の模擬刀で間違いない。
その他、右肩の打撃痕ありっと書いてある。・・・打撃痕がついたと同時に骨にヒビが入ったって事は相当強く叩かれたのだろう・・・。痛い所の話ではない。
肩の打撃痕は師匠の来ている和服によって隠れて見えないが、代わりにまたキラキラと光るものがある事に気が付いた。

琶月
「(ん・・・?また金箔・・・?)」

どうしてこんなところに?

[言魂:輝月の右肩についた金箔]
 
とりあえず目立った部分は一通り調べ終えただろう・・・。
これ以上は・・・調べたくない・・・。

琶月
「うっ・・・。」

未だに師匠が死んだことによるショックを乗り越えられず、死臭も重なって私は吐きそうになった。
私が吐きそうになっているのをヘルが見ると慌てながら私を引っ張り上げた。

ヘル
「お、おい。吐くなら向こうで吐け。」

そういうとヘルはシャワールームへの扉を開き洗面台で吐くように私を誘導しつつも突き飛ばした。
言われた通りに私は洗面台へと駆け込み、顔を下に向けるが吐き気だけして何も出てこなかった。

琶月
「う・・ぅぅぅ・・・・。」

顔を洗おう・・・。ちょっとすっきりするかも・・・・・。
私は蛇口を捻ると、綺麗な水が流れ出た。

琶月
「ん・・・!?あれ!?そういえば6時の時・・・水は出なかったはずなのに・・・なんで!?」
ヘル
「お前、知らねーのか?夜10時から朝7時までの夜時間の間は水が出ないんだぞ。
琶月
「ど、どうしてですか?」
ヘル
「知るかっつの!モノクマにでも聞け!このルールのせいで俺は3日前からシャワー浴びてねぇ。」
琶月
「うわ、くっさ!しかもルール全然関係ないし!!」

ヘル
「うるせぇ!!俺は夜11時にシャワーを浴びてぇんだよ!!」
ギーン
「静かにしろ。お前等の頭は猿以下だな。」

[言魂:断水]
 ->22:00から07:00までの夜時間の間は断水されていて一切の水が出ない。

琶月
「(何にしても・・・。あの時水が出なかったのは夜時間だったからなんだ・・・。)」

何故夜時間になると断水するのか?・・・っという考えは流石に今回の事件から脱線してしまいそうなので今は無視しよう。
事実だけに着目していく。

しばらく洗面台の上に突っ伏していると少しずつだけれど吐き気が治まってきた。
・・・この部屋は大体調べ終えたはずだ・・・。早く出よう。
そう思って顔をあげ後ろを振り向いた瞬間ギーンが厳しい目つきでこちらを睨みつけていた。

琶月
「う、うわぁっ!!」
ギーン
「凡骨、黙って俺の質問に答えろ。あの模擬刀は貴様の部屋に置いてあった物か?」
琶月
「うっ・・・そ、そうです・・・けど・・・。」
ギーン
「そいつを外に持ち出したことは?」
琶月
「ないですけど・・・。」
ギーン
「ずっと貴様の部屋に置いてあったって事か?」
琶月
「あ、えと・・・。正確に言うと元々は体育館に入る一歩手前の部屋に置いてあった模擬刀を私の部屋に持ち帰ったんです。
でも持ち帰った後は一回も外には出していないです・・・。」
ギーン
「それと似たような物はあったか?答えろ。」

何でこんなにも威圧的なんだ!
私は渋々答える。

琶月
「す、少なくとも・・・刀の形をしたものはそれだけでしたけど・・・。」
ギーン
「凶器はお前の部屋にあったという事実は揺らがないという事か。」

うっ・・・・。何か着々と私が犯人である事が積み重なって言っているような・・・。

ギーン
「ふむ・・・なるほど。もう一つの質問も答えてもらおう。輝月がお前の部屋で死んでいる事に心当たりはあるか?」
琶月
「そ、そんなのありません!!」

そう言った後に一つ、心当たりが見つかった。

琶月
「あ・・・でも・・・一つだけ・・・あるかも・・・。」
ギーン
「それは何だ。さっさと答えろ。」
琶月
「え、え・・・っと・・・。昨日・・・確か11時頃・・・。師匠が私の部屋に尋ねてきて・・・。部屋へ上がらせたんです・・・。」
ギーン
「その後は?」
琶月
「その後は・・・背中を見せた瞬間、突然首を叩かれて意識を失っちゃって・・・。次起きたら師匠が部屋の角で・・し・・し・・・。」
ギーン
「のたれ死んでいたって事か。もういい。」

それだけ言い放つとギーンは何処かへ行ってしまった。

・・・・・。

琶月
「・・・なんなの、あいつ・・・。」

私は小さな声で悪態をつき、ギーンと同様に部屋から出ようとした・・・その時。
ドアの中央に何かキラキラ光るものが見えた。

琶月
「え・・・?なにこれ?」

私は近づいて確かめようとした瞬間。ドアが勢いよく開いて私の顔面に激突した。

琶月
「あんぎゃぁっ!!!」

キュー
「ん?あ、ごめん。」

キューがドアの隙間から顔を除きだし、あまり悪びない様子で私に謝ってきた。

琶月
「ご、ご、ごめんじゃないですよ!!い、い、痛かった!!超痛かったです!!!
そ、そんなことより!!早く!早く扉閉めて下さい!」
キュー
「何々・・・。」

キューが狭いドアの隙間に体を潜らせて部屋の中に入る。
そして私と一緒にドアの中央にある極々小さく光っている物を眺め始めた。

キュー
「ん・・・?この光っているの・・・なに?」

大きさは大体1ミリ程度。自分でもよくこんなのを見つけたなっと思うぐらい小さなものだった。
このキラキラ光っている所だけ何故か窪んでいて小さな穴が出来ていた。
これは一体・・・。

[言魂:ドアに出来た小さな窪み]
 ->窪みにキラキラ光る物がついている。

と、とりあえず・・・今度こそ調べ終えたはずだ・・・。
私はキューを押しのけて廊下へと出て行った。


・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・。

廊下に出ると、ルイに支えられながら歩くキュピルの姿があった。

琶月
「あ、キュピルさん・・・!腕の方は・・・大丈夫ですか?」
キュピル
「この程度どうってことはない・・・。それより捜査の方はどうだ?」
琶月
「あ・・・えっと・・・ですね・・・。」

私はこれまで捜査した内容をキュピルに包み隠さず話した。
勿論、キュピルが犯人であれば手の内を読まれることになるのであまりよくないのだが
体を張ってキューを守ったキュピルは少なくとも犯人ではないだろうし信頼できると思って私は全てを話した。
その隣でルイも私の言う事に耳を傾けていたはずだ。

部屋の状況・・・・死体の状況・・・防音、断水、それと私の部屋に面しているドアに小さな窪みがある事・・・。
それら全てを話し終えるとキュピルは2度深く頷いた。

キュピル
「なるほど。・・・わかった。何か気になる事があったら言ってくれ。何か力になれるかもしれない。」
琶月
「は、はい・・・!」
ルイ
「そ、それよりキュピルさん・・・やっぱり少し休まれた方が・・・。」
キュピル
「いや、休んでいる場合じゃない。・・・これ以上こんな事を繰り返されるのはごめんだ・・・。」

そういうとキュピルは再びルイに支えられながら私の部屋へと歩いて行った・・・。

・・・こんな事繰り返されるのはごめんだ・・・。

それは私も同じ気持ちだった。
もう誰の死体だって見たくない。

・・・でも、キュピルの今のセリフ。妙に今の状況とマッチしていないような気がしたけど・・・・
特に気になった訳でもないので私は捜査に戻る事にする。


私の部屋を調べ終えた次は師匠の部屋を調べることにした。
師匠の部屋には鍵がかかっておらず、中に入り込むと道具も何もない生活感が一切感じられない部屋がそこにはあった。
余計な物は一切おかない。いかにも師匠らしい。

特に散らかっている訳でもなく、何か証拠に繋がりそうな物もない。何かあると思っていたのだけれど私の思い過ごしだったのだろうか・・・。
諦めて帰ろうとしたその時、ゴミ箱に何か入っている事に気が付いた。

琶月
「・・・これは・・・。」

ゴミ箱に入っていたのは粉々に砕かれたDVDの破片だった。
所々マジックで殴り書きされた物も交じっている。・・・これは・・・もしかして・・・。

琶月
「・・・昨日視聴覚室で見させられたあのDVD・・・かな・・・。」

・・・・・・モノクマも酷い事する・・・・。
これを見た時の師匠は一体どんな気持ちだったのか・・・・。私には想像できない・・・・。

[言魂:輝月に渡されたDVD]
 ->割れていて中身を見ることは出来ない。

私は粉々に砕かれたDVDの破片を1枚拾い、それを少し指で遊ぶとまたゴミ箱に捨てて部屋から去った。


・・・。

・・・・・・・・・。

私の部屋と師匠の部屋の調査を終えた。
だが、犯人の特定につながるような証拠は見つからなかった。

琶月
「うーん・・・どうしよう・・・このままじゃ・・・・。もしかして・・・犯人証拠を捨てちゃったりしてもうないとか・・・!?」

もし、そうだとすればこの後に待ち構えている学級裁判とやらは・・・相当悲惨な事になる。
ただ当てずっぽうと憶測だけが飛び交う議論。そんな絶望的な状況、想像したくもない。
まさか犯人は証拠品を処分してしまったのではないか!?
そう考えた私は居ても立ってもいられなくなり、気が付いたらゴミ処理場へと向けて走りはじめていた。


ゴミ処理場へたどり着くと、そこにはファンが四足を畳んで呑気に座っていた。

ファン
「おや、琶月さん。こんな所に来てどうかしましたか?」
琶月
「そ、そういうファンさんこそ・・・。」
ファン
「私はここを調査しているんです。」
琶月
「調査?」
ファン
「はい。」
琶月
「のんびり座っているようにしか見えないんですけど・・・。」
ファン
「別に歩かなくても調べられるので。」

そういうとファンは長い首をいろんなところに向けて鍵穴や鉄格子の先を覗いて何かないか調べ始めた。・・・身近な動物で言えばキリンみたいだ。

ファン
「誰かここで証拠品を処分した形跡がないかを調べています。ここでゴミを燃やして処分するためには私の持つこの鍵を使ってシャッターを開けなければいけないので
まず処分した人はいないと思いますが一応念のためにです。」

そういうとファンは、ゴミ処理場に降りているシャッターを開けるための鍵を私に見せた。
無駄に金色で出来たその鍵はゴミ処理場のシャッターを開けるための鍵とは到底思えない物だった。

琶月
「ちなみに確認なんですけど・・・その鍵ってのは確か掃除当番の人だけが持っているんですよね?」
ファン
「そうです。掃除当番は皆さんがここに置いてきたゴミを燃やして処分する当番であり、そのゴミを燃やすためにシャッターを開ける鍵も掃除当番だけが持っています。スペアキーはないそうですよ。」
琶月
「ところで、ファンさんはもう誰かのゴミを処分したりしましたか?」
ファン
「いえ、誰も私の話を聞いていなかったみたいでここにはまだ何もゴミが置かれていませんね。私のも含めてまだ誰のゴミも処分したことがありません。」

・・・!今の話は重要かもしれない。

琶月
「という事は、今回の事件の犯人は証拠を処分した可能性は限りなく低い・・って考えて大丈夫ですか?」
ファン
「そう考えても差し支えないと思います。現時点で燃やす以外にゴミを処分する方法は見つかっていませんから。」

[言魂:ファンの証言]
 ->まだ誰のゴミを処分したことがないため、全てのゴミが残っていると証言した。

ファン
「この事件が片付いたら大掃除をしたいですね。ゴミが溢れてしまう前に。」
琶月
「そ、そうですね・・・。」
ファン
「琶月さんにもう一度言っておきますけど、何かゴミを処分したいときはここゴミ処理場に置くようにしてくださいね。
まさか私がみなさんのお部屋を訪ねてゴミ箱を持っていくわけにはいきませんので。」
琶月
「あ、はい。」

・・・2回目らしいけどそんな事、過去に言われた事あったっけ?
私はそんな事を考えながらゴミ処理場を後にした。


・・・。

・・・・・・。

廊下に出るとボロとガムナの話し声が聞こえてきた。
・・・どうやらゴミ処理場を出て右手側にあるトイレの前で会話をしているようだ。
私は気になって二人に近づくと、ボロもガムナも私の存在に気付いたようだ。

琶月
「何しているのですか?」
ボロ
「隊長がお腹下したみたいでトイレに籠っちまってるんすよ。」
ガムナ
「昨日あんな馬鹿食いするから・・・。」
琶月
「馬鹿の馬鹿食い?」
ボロ
「お、言うっすねぇ。」
ガムナ
「ない胸揉ませろ。」
琶月
「へ、へ、変態だぁっーーー!!!!」
ガムナ
「うっせー。どうせ琶月が犯人なんだろ?学級裁判で一発で指摘されて処刑される前にちょっと良い事させろや。」
ボロ
「お前本当貧乳好きっすね。」
ガムナ
「ふひひひ。」

こ、こいつら・・・・。
私が怒った表情を見せても二人は全然怯む気配はない。ガムナが徐々に私に近づいてきて・・・って・・・あれ?地味にピンチだったりする?

琶月
「じょ、冗談ですよね?ね?」

じりじりと後ずさりする私。真面目にピンチかも・・・っと思ったちょうどその時。

テルミット
「何しているのですか?」
ガムナ
「おっと・・・何でもないぜ。」

ガムナとボロの背後からテルミットが声をかけてきた。
テルミットに声をかけられた二人はその場で動作を静止させ、何事もなかったかのようにまた壁に寄りかかり始めた。

琶月
「(あ、後でお礼いっておこ・・・。)」
テルミット
「・・・ちょうどいいや・・。ちょっと二人に聞きたい事があって。」
ボロ
「ん?なんすか?」
テルミット
「昨日の時間帯。皆が何をしていたのかちょっと聞いて回っているんだ。いわゆるアリバイです。」

あ、なるほど・・・。最初に考えるべきだったアリバイについて私はすっかり忘れていた。
こうやって捜査して分ったことは、まず捜査してすぐに犯人の存在がつかめる訳ではないという事を私は知った。
それならアリバイを調査して消去法で考えれば新しい考えも生まれてくるのではないだろうか?
私はテルミットと2馬鹿の話に耳を傾けた。

テルミット
「昨日の夜10時から朝6時までの時間帯。何をしていたか教えてくれない?」
ボロ
「俺とガムナは昨日1時までボードゲームで遊んでたっすよ。その後は自分達の部屋で寝たっす。」
テルミット
「ボードゲーム・・・?そんなの、どこで見つけたのですか?」
ガムナ
「購買に置いてあったノートを何冊か持って行って紙にマス目を書いて俺達が作ったんだぜ。その名もCivilizationBG」
テルミット
「す、すきですね・・・そういうの・・・。ヴィックスさんは?」
ガムナ
「あぁ、隊長も途中までは参加していたぜ。でも隊長もあんな様子だっただろ・・・?10時になったら疲れたと言って自分の部屋で寝ちまったぜ。」
ボロ
「結局隊長は6時になった後、キュピルの超連打のドアノックでようやく起きたぐらいだったすから、その時間帯はずっと寝てたと思うっすよ。」
テルミット
「そうですか。・・・結局3人とも事件の起きた時間帯はアリバイはないんですね。」
ボロ
「そりゃそうっすよ。事件が起きたのは1時40分前後っすよ。普通全員自分の部屋で寝てるっす。」

そりゃそうだ・・・。
そう考えるとテルミットの行っているアリバイ探しはあんまり意味ないのかもしれない。

[言魂:ボロとガムナの証言]
 ->ガムナとボロは昨日1時までボードゲームを行い、その後自分の部屋で寝たらしい。
 ->ヴィックスも参加していたらしいが動機が収録されているDVDで神経がすり減り疲れてしまったのか10時で眠ってしまったらしい。

テルミット
「えーっと、では琶月さん。次にあなたのアリバイを聞いてもいいですか?」
琶月
「私もアリバイはないですよ・・・。昨日は朝の11時から朝の6時までずっと寝ていましたから・・・。」
ガムナ
「ぷっ、なんじゃそりゃ。」
ボロ
「琶月は猫っすか?」
ガムナ
「猫でもそんなに寝ないっつの。まぁ、俺個人としては猫化した琶月を一回見てみたい。」

思わず手が出てしまい、ボロがガムナの後頭部を軽く叩いた。
テルミットが残念そうな表情をしながら私に返答をする。

テルミット
「うーん、そうですか・・・。ありがとうございます。」
琶月
「ところで、その時間帯でアリバイを持っている人って見つかりましたか?」
テルミット
「じ、実は・・・誰もアリバイを持っていなくて・・・。」
琶月
「・・・・やっぱりそうなりますよね。」

今回に限ってはアリバイ探しは意味のない行動っぽそうだ・・・。
私はそそくさと三人の元から去って行った。

・・・・。

・・・・・・・・。

うーん、次はどこを調査すべきだろうか?
そう考えていると、突如寄宿舎内でチャイムの音が鳴り響いた。


キーンコーンカーンコーン


次にプツリと校内放送の電源が入る音が鳴り、そして忌々しいモノクマの声が聞こえ始めた。


モノクマ
「えー、ボクも待ち疲れたんで・・・。そろそろ始めちゃいますか?
お待ちかねの・・・・学級裁判をっ!!」

も、もう時間!!?もっと調べるべき場所があったのでは・・・。
そう思うと何だか急に不安な気持ちになってしまう。
そんな私の気持ちを余所にモノクマは校内放送を続ける。

モノクマ
「ではでは、衆望場所を指定します。
校舎エリア一階にある、赤い扉にお入りください。
うぷぷ、ちゃんと迷わずいけよ~。じゃぁ、また後でね~!」


・・・・。


赤い扉・・・。

そうだ、皆が調べた初日と・・・私が調べた二日目の時。
どうしても開かなかったあの不気味な赤い扉があったはずだ・・・。
そこに行け・・・っとの事みたいだ。


もう行くしかない。

やるしかないんだ。


一通りの調査は終えたと思う。
赤い扉へ向かいながら、これまで見つかった武器になりそうな証拠を思い返してみよう。

[言魂:ザ・モノクマファイル1]
 ->事件状況について詳しく書かれている。


[言魂:ファンの手帳]
 ->私の身体状況について細かく書かれている。
 ->事件当時、私の服は血でぐっしょりと濡れていたらしい。
 ->手は綺麗だったらしい。


[言魂:壁についた無数の傷跡]
 ->何か斬撃が掠ったかのような跡がたくさん残っている。


[言魂:防音の施された部屋]
 ->私の部屋に限らず、全員の部屋は防音が施されているらしい。


[言魂:黄金の模擬刀]
 ->師匠と一緒に持ち帰った模擬刀。素手とかで触ると簡単に金箔が剥がれる。水で流しても中々洗い流せない曲者。


[言魂:輝月の指についた金箔]
 ->指に金色のキラキラしたものがついていた。恐らく金箔。


[言魂:輝月の右肩についた金箔]


[言魂:断水]

 ->22:00から07:00までの夜時間の間は断水されていて一切の水が出ない。


[言魂:ドアに出来た小さな窪み]
 ->窪みにキラキラ光る物がついている。


[言魂:輝月に渡されたDVD]
 ->割れていて中身を見ることは出来ない。


[言魂:ファンの証言]
 ->まだ誰のゴミを処分したことがないため、全てのゴミが残っていると証言した。



[言魂:ボロとガムナの証言]
 ->ガムナとボロは昨日1時までボードゲームを行い、その後自分の部屋で寝たらしい。
 ->ヴィックスも参加していたらしいが動機が収録されているDVDで神経がすり減り疲れてしまったのか10時で眠ってしまったらしい。



こんな所だろうか・・・。
私の調べた物全てが学級裁判で通用するかどうかわからない。もしかしたら全部使うかもしれないし使わないかもしれない・・・。
・・・こうやって振り返ってみると、結局犯人の特定に結びつく決定的な証拠は見つかっていない。
これで大丈夫なのか・・・強い不安感が私を襲う。

そしてついには赤い扉の前へとたどり着いた。
私は、そのでかくて重々しい赤い扉を開け中に入るとそこはコンクリートの壁で覆われた狭い一室があった。
目の前には非常に古そうな錆びついたエレベーターへ入るための扉があった。今はまだ閉じられていて開いていない。

一室には何人かが既に到着していた。

キュー
「琶月・・・。」

キューが私を疑いの目と心配そうな目、二つの眼差しを向ける。
一室に既に居たのはキューとキュピルとルイとファン。次に私がこの部屋に到着し、それから三分も経たないうちに全員がこの部屋に集まってきた。
・・・誰も口を開かず、ただただ重苦しい雰囲気だけが漂う。

全員が一室に揃うと部屋の隅にあったモニターの電源が入り、モノクマの姿が映し出された。

モノクマ
「うぷぷ・・・みんな揃いましたね?それでは・・・。
正面に見えるエレベーターにお乗りください。そいつが、オマエラを裁判場まで連れてってくれるよ。
オマエラの・・運命を決める裁判場にね。
うぷぷ、僕は一足先に行って、待っているからね!」

そういうとモニターの電源は落ち、そして目の前にあるエレベーターへ乗り込むための扉が開いた。

ボロ
「の、乗るしか・・ないんすよね?」

誰もボロの言葉に返事をしない。
だが、無言で真っ先にエレベーターに乗った人物がいた。・・・ギーンだ。

ギーン
「ふん、どいつこいつも湿気た面をしているな。ゲームを楽しむ気にもならないか。」

ギーンが乗り込むと次にディバンも乗り込んだ。

ディバン
「・・・まるで肝試しだな。」
ヘル
「ちっ、さっさと裁判場とやらに降りて犯人見つけてシバクぞ!」
ジェスター
「その犯人はもう目途ついちゃっているけどね。」
ボロ
「っす」

三番目にヘルが乗り込むと、他の人たちもぞろぞろと錆びたエレベーターへと乗り始めた。
・・・私は、怖くていつまでもエレベーターに乗れずにいた。

キュピル
「怖いのか?」

横からキュピルに話しかけられ、私は思わず顔を逸らした。

琶月
「い、いや・・・怖い・・っていうか・・。」
キュピル
「・・・琶月、この事件の謎は琶月自身が突き止めるべきだ。
・・・でなければ、きっと納得しないまま終わってしまう。」

それだけキュピルは言うとエレベーターへと乗り込んでいった。

・・・この謎は私が突き止める/べき・・。


言われてなくたって、そうするつもりだ。


琶月
「師匠のためにも・・・。絶対に私が犯人を突き止めてみせる!!」




そう自分に言い聞かせるように声を張り上げると、
私は緊張に震える足をエレベーターへと向けた。

一歩一歩進むごとに、心臓の鼓動も徐々にその速度をあげていく。
既に全員が乗り込んだエレベーター。最後に私が乗り込んだところで

扉は閉じ・・エレベーターは動き始めた。




・・・・。

・・・・・・・・・。


ゴウン、ゴウンと耳障りな音を響かせながらエレベーターは地下へと下っていく。


琶月
「・・・死刑を待つ囚人の気分って、こんな感じなのかな・・・・。」
ジェスター
「それって自首?」

私はその問いに答えず、そして誰も口を開ける事はしなかった。


私達の不安な気持ちを余所に、エレベーターはどんどん地下へと潜っていった・・・。
そして、ついにエレベーターはその動きを止めベルの音が鳴る。・・・到着したようだ。
錆びついたエレベーターの扉が開くと、そこは裁判場にある証言台を15台を円形状に繋ぎ合わせた物とその15の証言台より少し高い所にある王座があるだけの部屋だった。
その王座にはモノクマが座って私達が裁判場にやってくるのを待っていた。

ヴィックス
「な、なんだこの部屋・・!?」
ボロ
「こ、ここが裁判場っすか?」
ガムナ
「日本の裁判場を意識していたから思っていたより全然ちげぇ・・!」
モノクマ
「にょほほ!やっと来たね!どうどう?これっていかにも裁判場ってカンジじゃない!?」
ヘル
「どこがだ・・・。悪趣味な空間だぜ・・・・。」
ルイ
「ここの内装・・・。西洋風ですね・・・。中世の西洋を意識されているのでしょうか・・・。」

ぞろぞろと、裁判場へと足を踏み入れていく私達。

モノクマ
「はいはい!じゃあオマエラは自分の名前が書かれた席について下さいな!
はり~あっぷ!はり~あっぷ!!」

モノクマがそういうと、それぞれ証言台に自分の名前が刻まれた台を探しては今後の定位置へとついていく。
既に死者となってしまった師匠の証言台には、かわりに遺影が置かれていた。

ディバン
「悪趣味にも程がある。」
モノクマ
「死んだからって仲間外れにするのは可哀想でしょ?友情は生死をも飛び越えるんだよ!ほらほら、時間が少ないんだから早く席について。」

渋々とそれぞれ自分の名前が刻まれた証言台へ進む私達。
私は、自分の証言台の前に立つと目の前にはキュピルが立っていた。

キュピル
「琶月。」

皆が私を責めるような目で見る中、キュピルだけが私に対して励ますような目をしている・・・。
私は一瞬目を奪われキュピルの顔を見つめ続けた。きっとキュピルから見たら今の私の顔は助けてほしそうな顔をしているように見えただろう・・・。
事実そうなのだけれど・・・。
そして、静かにキュピルは喋った。

キュピル
「・・・いいか、琶月。お前が本当に黒でないなら・・・。これから始まる学級裁判に矛盾が必ず見つかるはずだ。
臆せず、その矛盾を一つずつ。自分が捜査して確証を得ている情報をぶつけて論破するんだ。そうすれば少しずつ、真実に近づいていく。」
琶月
「真実に・・・?」
キュピル
「そうだ。・・・自分を信じろ。輝月が心配するぞ。」



・・・自分を信じる。

・・・・・。

不思議と、自分の自信が高まっていくように感じる。

そうだ・・・。

私は真実に近づき真相を知らなければいけない。

何故なら、師匠を殺した奴に報いを与えるために・・・!!



・・・・。


やってみせる。


私のためにも・・・。

皆のためにも・・・。



そして師匠のためにも!!



モノクマ
「じゃぁ~学級裁判!はっじめるよ!」

始まるんだ・・・。

命がけの裁判・・・。

命がけの騙しあい・・・

命がけの裏切り・・・

命がけの謎解き・・・

命がけの言い訳・・

命がけの信頼・・・




命がけの学級裁判!!


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